30歳からのカナダ・ハワイ留学

会社を辞めて留学した、渡辺真由子の日々。

中国人と日本人


バンクーバーゲイ・パレード


 バンクーバーは北米という感じがしない。アジア系の留学生や移民が多いので、中華を始めとしたアジア料理の店が至る所にあるし、ダウンタウンを歩けば中国語に韓国語、もちろん日本語も四方八方から耳に飛び込んでくる。以前住んだオーストラリアのアデレードでは白人が大多数を占めていたので、同じく英語圏であるカナダも白人の国だろうと出発前は思っていた。せっかくだから“アジアンビューティー”を強調しようと、日本では染めていた髪をわざわざ黒髪に戻して乗り込んだほどだ。それなのにバンクーバーの街は黒髪であふれているではないか。拍子抜けである。

 語学学校が集中するダウンタウンには、アジア系留学生の中でも韓国人と日本人が比較的多いが、大学のキャンパスとなると中国人の割合が一気に増える。私の大学では、留学生の実に8割が中国人で占められている印象だ。なぜ中国人はカナダの大学を目指すのだろうか? まず、海外への滞在が何かと規制されている中国人にとって、アメリカよりも学生ビザが取りやすいというのが1つ。さらに、中国では海外の大学の学位を持っていると、就職の際の給料が大幅に違うそうだ。このため中国人の若者は一生懸命に英語を勉強する。その勤勉さゆえに、カナダの大学への合格率が、韓国人や日本人に比べ圧倒的に高いようなのだ。ちなみに中国人の名前は英語での発音が難しいので、留学生は自分に英語のニックネームをつけることが多い。「オリビア」、「ソフィ」、「エドワード」など。アジア系の外見と組み合わせると少々不思議な感じではあるが……。一方、日本人の名前は英語でも比較的発音しやすいため、本名で通すのが一般的だ。とはいえ、もしあなたが留学を機に新しい自分を見つけたいと思っているのなら、「キャサリン」や「マイケル」になりきってみるのも面白いだろう。

 中国人留学生は日本人に対してとてもフレンドリーだ。彼らの周りが同じく中国人ばかりなので、どうやら日本人相手に英語の練習をしたいのと、日本のファッションやアニメへの多大な興味がそうさせるようである(いま中国人に最も人気のアニメはNARUTO)。私も中国人のパーティーに呼ばれたり、手料理を振る舞われたりすることがよくある。だが、普段は穏やかな彼らの表情は、話題が歴史問題になると一変するのだ。日本人留学生を責めることはないものの、中国では従軍慰安婦問題に立腹して日本人女性を同じ目に遭わせたいと考える若者たちがいること、もし南京に日本人の友人を連れて行ったら自分も追放されてしまうこと、などを訥々と語る。両国の歴史認識には大きな隔たりがあるので、こちらも軽々しく受け答えることは出来ない。だが中国と日本の過去が、この21世紀に遠く離れたカナダで暮らす留学生同士の関係にまで影響を与えかねないという事実は重い。日本政府の中国への対応を、カナダから気をもみながら見守らなくてもいい日が、早く訪れてほしいものだ。