会社を辞めてカナダ留学

30歳目前でバンクーバーに留学した、渡辺真由子の日々。途中でハワイにも留学☆ 初出:『現役ジャーナリストが語るカナダ大学留学レポート』(スペースアルク、2005~2006) Report of Study Abroad in Canada by a Japanese Journalist

大学と授業の実態


サイモンフレイザー大学


ようやく中間試験が終わった。「中間試験」なんて高校のような響きだが、私の大学では中間と期末試験、さらにその間に論文提出と、計4回以上の試験があるのは珍しくない。だから学生たちは常に勉強に追い立てられ、気の休まる暇がないのである。もちろん留学生は、テキストブックを読むにも辞書を引くなど時間がかかるので、カナディアン学生の数倍机にかじりつくハメになる。試験といえば期末一回きりで、あとはサークルだバイトだと遊びまわっていた日本の大学生活が懐かしい。あなたもカナダに来るなら覚悟しましょうね。

バンクーバーにはカナダのトップクラスとされる大学が2つある。1つは私の通うSimon Fraser University (SFU) で、もう1つはThe University of British Colombia (UBC)だ。留学希望者はどちらの大学にすべきか迷うハズなので、簡単に(少々SFUびいきかもしれないが)ご紹介しよう。UBCが創立90年目を迎え、学生数も4万人と大規模、知名度も高いのに比べ、創立40年で学生数約2万人のSFUは、少人数制の講義や授業内容の充実などで区別化を図っている。特にコンピューターサイエンスや犯罪学、私が所属するコミュニケーションなどの学科の評価が高い。授業内容に魅かれてSFUに決めたという学生が多く、私もその1人だ。

また、SFUには日本人学生にとって嬉しいポイントがある。ズバリ、日本人が殆どいないのだ。UBCは関西の某私立大学からまとまった数の交換留学生を受け入れているが、SFUはそのようなことはない。さらにTOEFLの要求点がUBCより高く設定され、しかも日本での知名度は高くないときているので、自然と日本人は集まってこないと思われる。英語環境にドップリ身を浸したいという方にはおススメだ。

ところで、そんなSFUの授業の仕組みはどうなっているだろうか。1年は3つの学期に分かれ、1月、5月、9月のいつからでも入学出来る。3学期通して在籍する必要はないので、夏学期(5月〜8月)を丸々休んでヨーロッパ一周旅行にあてるなどという学生もいる。優雅なものだ。授業は講義に加え、20人程度のグループ単位で議論をするチュートリアル(日本の大学のゼミみたいなもの)から成り立つ。文系の場合、この授業に備えて読むテキストブックの量が1回100ページ以上と、オソロシい事態になることもある。文系留学を希望するならまずリーディングと、さらに論文を書く機会もやたら多いのでライティングの技術を磨いておくことは不可欠だ。理系の場合、アジア人留学生はカナディアンより優位に立つことも難しくないようだが・・・・・・。

最後に、気になる授業料について。実はバンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州はこの数年、高等教育機関の授業料を急激に引き上げ続けているのだ。4年前に比べてなんと2倍近くになっているというから驚きである。バンクーバーに留学しようか迷っているあなた、これ以上値上がりする前に、エイッと決断した方がいいのではないだろうか。

同性間結婚 ついに合法化へ

その日、SFUキャンパスに急きょ看板が立てられた。イラストには新婚ほやほやの2人の“男性”が描かれている。6月28日、カナダ国会の下院は、同性同士が結婚することを合法化する法案を可決したのだ。来月にも上院で可決され、正式に認められる。オランダ・ベルギー・スペインに続き、同性間結婚が合法とされる世界4番目の国の誕生だ。同性同士の結婚にも、年金の受給や財産の相続といった、異性婚と同様の権利が与えられることになる。

ゲイやレズビアンの人々からは「これで愛する相手と連れ添うことが出来る」と喜びの声が上がっている。この法案を先頭に立って推し進めたのは、他でもないポール・マーティン首相だ。首相が繰り返し言っていたのは「カナダは少数派の人々によって作られている国家だ。各自の権利が尊重されなければならない」という言葉である。まさに、様々な人種、民族が集まった「多文化主義」カナダならではの決断といえるだろう。

同性愛者はキャンパスでもオープンな存在だ。私の大学には、ゲイ、レズビアンバイセクシュアルといった人々のためのサークルがある。冒頭の看板を立てたのもこのサークルだ。同性愛者が集う場所であることを大きくうたい、部室も人通りの多い場所に構えるなど、堂々としたものである。キャンパス内には「同性愛者の人はこんな健康問題に注意しましょう」と丁寧にアドバイスするパンフレットまで置かれている程だ。授業でも、セクシュアリティ(性的特質)はテーマとして成り立っている。コミュニケーションや女性学といった分野では、同性愛者が辿ってきた歴史や社会での地位などを研究する授業があり、当事者である学生たちも多く学んでいる。

しかし、いくらカナダが同性愛者に理解のある国といっても、全ての人が彼らに好意的なわけではない。学校でのいじめは存在するし、家族や友人に自分の性的指向を告白することへのためらいも相当なものである。ゲイの友人がいるというカナダ人の学生は、「これまで彼らが味わってきた生きづらさを考えたら、あの法案は当然成立するべきだよ」と語っていた。

翻って日本はまだまだ、同性愛者への理解が進んでいるとは言い難い。彼女ら彼らはどうしても、人目をはばからざるを得ない状況にある。「カナダに来ると肩の力が抜ける。本当の自分に戻れる」と語るゲイの日本人留学生もいた。マーティン首相は、同性同士の結婚を認めることで「カナダは世界の手本となるだろう」と語っている。お互いの違いを受け入れ、個性として尊重する。そんな価値観に触れるのも、この国に留学するからこそ得られる経験の1つだろう。

カナダで寮に住むということ


シアトル旅行にて。スタバ第1号店


海外での寮生活は昔からの憧れだった。部屋代は安いし校舎に近いし、なんといっても様々な国籍の学生たちと知り合えるのが魅力的ではないか。基本的に、大学付属の語学学校に通う場合では入寮資格は得られない。正規の学生にのみ与えられる特権なのだ。私が正規の学生を目指してひたすら勉強に励んだ動機の40%くらいは、この“寮生活願望”が占めていたといっても過言ではない。
 さて、そんな熱い思いで手に入れた寮生活。家賃は食事なしの個室で月4万5千円ほど。同じ階に住むのはカナダ、中国、トルコ、インド、ベトナム、韓国、そして唯一の日本人の私という多国籍な顔ぶれの女子と男子である。・・・そう、この寮は男女混合なのだ。それだけならまだいいが、なんとトイレやシャワーも一緒に使うのである。海外ドラマ「アリー・myラブ」でも女性と男性がトイレを共有していたが、私の寮ではトイレがある一室にシャワーと洗面台も併設されている。このため、女子が花の香りのソープに包まれて顔を洗っているすぐ横で、男子が高らかなサウンドを響かせながら用を足していたりする。もちろん、朝イチのトレパン姿でひげを剃る男子の背後で、女子がシャワーを浴びていることもある。日本人の感覚としては盗聴・盗撮その他の事件が起きてもおかしくないのではと思えるのだが、こちらではそんなことはない。「別に気にしないもんね」とお互いあっけらかんとしたものだ。さすがはオープンな国カナダの大学、これも健全な青年育成のための一環だろうか。日本では異性への興味が歪んだ形で表れる犯罪が後を絶たないが、教育現場で女子と男子の生理的な部分を隠し合ってきたことも一因かもしれない、と感じさせられる。
 この寮は食事が付かず、しかも山の上なので近くにコンビニや定食屋などあるはずもなく、学生たちは自炊せざるを得ない。共同で使うキッチンでは誰が何を洗ったのかわからないベチャベチャのスポンジなどを使い回すので、きれい好きな人には耐えられないかもしれない。そんな場所でも、女子も男子も様々な調味料を駆使して凝った料理を作る。旦那にするなら寮出身者はイチオシだ。ちなみに和食好きが多いカナダ人は、日本人はみな寿司を作れると思っているらしく、作ってくれとせがまれることが度々ある。私は握りはおろか手巻きも散らしも稲荷も作り方を知らないため、「日本じゃスシ職人になるには10年かかるんだ」と言ってその場を切り抜けているが、カナダに来るなら多少は作れるようになっておくことをお勧めする。
 寮に暮らす限り、騒音や汚損といった問題は付きものだ。それでも他の学生たちと話す機会が増えるので英語の勉強になるし、賑やかな環境は留学生活の孤独感を吹き飛ばしてくれる。すっかり寮生活が気に入った私は、来学期は別の寮に移る。今度は一戸建てを4人でシェアするタイプだ。新しい寮での暮らしも、いずれお伝えできるだろう。