会社を辞めてカナダ留学

30歳目前でバンクーバーに留学した、渡辺真由子の日々。途中でハワイにも留学☆ 初出:『現役ジャーナリストが語るカナダ大学留学レポート』(スペースアルク、2005~2006) Report of Study Abroad in Canada by a Japanese Journalist

同性間結婚 ついに合法化へ

その日、SFUキャンパスに急きょ看板が立てられた。イラストには新婚ほやほやの2人の“男性”が描かれている。6月28日、カナダ国会の下院は、同性同士が結婚することを合法化する法案を可決したのだ。来月にも上院で可決され、正式に認められる。オランダ・ベルギー・スペインに続き、同性間結婚が合法とされる世界4番目の国の誕生だ。同性同士の結婚にも、年金の受給や財産の相続といった、異性婚と同様の権利が与えられることになる。

ゲイやレズビアンの人々からは「これで愛する相手と連れ添うことが出来る」と喜びの声が上がっている。この法案を先頭に立って推し進めたのは、他でもないポール・マーティン首相だ。首相が繰り返し言っていたのは「カナダは少数派の人々によって作られている国家だ。各自の権利が尊重されなければならない」という言葉である。まさに、様々な人種、民族が集まった「多文化主義」カナダならではの決断といえるだろう。

同性愛者はキャンパスでもオープンな存在だ。私の大学には、ゲイ、レズビアンバイセクシュアルといった人々のためのサークルがある。冒頭の看板を立てたのもこのサークルだ。同性愛者が集う場所であることを大きくうたい、部室も人通りの多い場所に構えるなど、堂々としたものである。キャンパス内には「同性愛者の人はこんな健康問題に注意しましょう」と丁寧にアドバイスするパンフレットまで置かれている程だ。授業でも、セクシュアリティ(性的特質)はテーマとして成り立っている。コミュニケーションや女性学といった分野では、同性愛者が辿ってきた歴史や社会での地位などを研究する授業があり、当事者である学生たちも多く学んでいる。

しかし、いくらカナダが同性愛者に理解のある国といっても、全ての人が彼らに好意的なわけではない。学校でのいじめは存在するし、家族や友人に自分の性的指向を告白することへのためらいも相当なものである。ゲイの友人がいるというカナダ人の学生は、「これまで彼らが味わってきた生きづらさを考えたら、あの法案は当然成立するべきだよ」と語っていた。

翻って日本はまだまだ、同性愛者への理解が進んでいるとは言い難い。彼女ら彼らはどうしても、人目をはばからざるを得ない状況にある。「カナダに来ると肩の力が抜ける。本当の自分に戻れる」と語るゲイの日本人留学生もいた。マーティン首相は、同性同士の結婚を認めることで「カナダは世界の手本となるだろう」と語っている。お互いの違いを受け入れ、個性として尊重する。そんな価値観に触れるのも、この国に留学するからこそ得られる経験の1つだろう。